再会の刻
前田さんがいかにもやりそうな、アッと言わすエンディング予想
***プロローグ***
「つまんない」
生まれて初めて綺麗だと思った朱金の輝きは、もう既に他の誰かのものだった。
もっと近くでその輝きを目にしたいと思ったが、宝石の様な朱金の光は何処までも暗い深紅の結界のようなものに阻められていた。
それでもわずかな隙間から漏れ出るこの輝き。
この深紅は、朱金のあの綺麗な女性を苦しめているのだ......そう感じた。
捕らえて、玩具のように扱っているのだ。
「なんて綺麗なのに、なんて悲しい光」
もう少し自分に力がつけば、あの深紅の魔性に勝てるかもしれない。
だが生まれたばかりの、幼い少女姿の魔性には、あの深紅を超えられるような経験が無かった。
真っすぐで、つややかな黒髪が風に揺れた。
漆黒の瞳がキラリと光る。
「あんなに綺麗な輝きを閉じ込めて台無しにしちゃうなんて、勿体ないわっ!」
あたしなら、そんなヘマ絶対絶対しないのに!
ふと気が付くと、あの朱金の輝きに隠れるようにして見える藤色の気配。
かなり力の強そうな魔性だ。
なのにこちらの気配も深紅の罠に囚われ、痛めつけられ、かなり衰弱しているようであった。
藤色の魔性の青年の前には、おびただしい血にまみれた金髪の美しい女性がいた。
もはやその女性も虫の息のようだが。
その女性の周りにも、数体の人間の死体が転がっている。
見せしめに殺されたのだろうか?
きっとそうやってあの藤色の魔性を痛めつけているのだ。
「なんて楽しそうな遊びなのっ! でも他人がやった事なんか繰り返すのも馬鹿みたいよね」
悔しいったら!
生まれたばかりのこの少女の妖貴は、自分がやってみたい遊びの悉くを深紅の魔性に取られて、その可愛い頬をぷくっと膨らませてみせた。
「みんなあの朱金に惹かれて来たのかしら? 馬鹿ね、もっと上手くやればいいのに」
力の使い方は、自然に身に付いていた。
実験したくてたまらない。
自分はあの馬鹿な魔性と人間達の様にはならないのだ。
あの深紅の魔性よりも誰よりも、自分があのまばゆい朱金の女性の傍にいるのが一番良いと思った。
「だってあんなに綺麗なんだもの。 絶対手に入れてみせるんだからっ!」
漆黒の瞳がやる気でみなぎって来た。
少女の妖貴はぐっと握りこぶしを固める。
「そうだわ」
可愛らしい唇の片端が、楽しい悪戯を思いついたかのように吊り上がった。
我ながらの名案に、幼い妖貴はほくそ笑む。
自分の計画に使える能力は、息をする位簡単に染み込んで来た。
過去に跳んで、あのいけ好かない深紅の魔性が朱金の女性をたぶらかす前に、お友達になれば良いのだ。
そして仲良くなれたら、彼女が好きな事をいっぱいしてあげて、自分が彼女の一番になれば良いのだ。
「なーんて良い考えなのっ!」
朱金が自分のものではないこの現実は耐えられないし、許せない。
ならば過去に戻って、『現実』を変えれば良いだけのこと。
未来は要素一つで変わるもの。
真っすぐな黒髪がざっと舞い、瞬間、少女の妖貴は宙に掻き消えた。
まばゆい朱金の輝きは、どこの時空からでも一目瞭然だった。
あの邪魔な赤男が傍にいない時期を選んで、降り立った。
そこはルヴァスという街らしく、人々で賑わっていて、幼い彼女はなにか楽しい遊びが無いかどうか、気を取られてしまった。
だが、姿を消して宙に漂っているうちに、ふと感じる視線。
あーーー!
見つけたっ!!
近くで見る朱金は、極上の美しさで、目を細めても眩しい位だ。
ぜひお近づきになりたい。
人間に化けて、人気の無い裏路地に滑り込んだ。
第一印象は大事だから、にこやかな笑顔で歩み寄る。
「こんにちは、あたしは茅菜というのよ、あなたは?」
→Next