***


ピチャ、ピチャ
血の滴る音がする。
それを噛む度に、口の端から血が滴る。

「どうだ? 場所が分かりそうか?」

ズズズッと血をすする音とともに、一人の女がもはや動かない人間から、埋めていた顔を上げる。
女は美しい人間に見えたが、彼女の髪の色は人間には持ち得ないであろう深い緑色をしていた。
同色の瞳からは、滂沱の涙が溢れている。
溢れ出た涙が、彼女の血みどろの頬を洗い流す。

「まだだわ...」

死んだ男の心臓の残りを、また一切れ口に運ぶ。
それを噛む度に、何となく身体に力がみなぎる様な感覚を覚えたが、まだまだ力が足りなかった。
探し物の方角は何となくわかるものの、細かい場所や距離までは見当もつかなかった。

「そう...」

がっくりと肩を落として、すらりとした人型をしているが一目で妖鬼とわかる男がつぶやいた。
瞳は大きく、鮮やかな緑色をしていた。耳の先端も、人では有り得ないほど尖っている。
だが容姿から判断すると、格段に力のある妖鬼だと一目で知れた。

「それならまだ獲物が必要か」

惨殺された人間の男の遺体の損傷は、直視出来ないほどひどいものだった。
鮮やかな緑色の頭髪と瞳をギロリと輝かせながら、男は既にことぎれた男を一瞥する。
瞳に宿った激しい憎悪さえなければ、男は森の妖精を思わせるかの様な風貌だった。
好みによっては美しいとさえ呼べる容姿の持ち主かもしれない。

もうずいぶんと長い事、こうやって憎しみを糧に二人で生きて来た。
鮮やかな緑の男は憎しみの対象となる人間を嬲り殺し、深緑の女は力を付ける為に、その人間の心臓を喰らいながら涙を流すのだ――。


→Next