お絵かきチャットお題  医者
碧様 作
ドイツ語で書かれた冊子を片手に、その女性は会場から出てきた。
真っ黒な黒髪にきりっとした面立ち。グレーのスーツが似合っている。首元にはシンプルなネックレスがある。
 勿論、会場から出てきたのは彼女だけではない。他にも数百人に上る人々が、様々な言語を飛び交わせながらそこから出てくる。彼女もすれ違う人と挨拶をしたり、歩きながら話をしたりしている。
 会話の内容は、どれも一般人からしてみれば小難しいものであった。
 だが彼らは皆喜々としてそんな会話を繰り広げている。
 一種異様な光景だったのかもしれない。
 そんな集団に交じって彼女が向かう先は、会場のある敷地の出口。出口自体は何ヶ所かあるのだが、正面にある1番大きな出口が交通の便がいいことも有り、だいたいの人間はそちらに向かっていた。
 彼女もこの後、宿泊先のホテルで友人と待ち合わせている為にそちらの出口へ歩いていく。
 その出口で、待ち伏せをしている人間が1人。
 いや、実際には他にも何人か待ち合わせがあるのか、出口付近のベンチに座っている人間がいるので、決して1人と言うわけではない。ただ、その目立つ容姿ゆえに、やたらと際立っているだけで。
 一着10万はするだろう、ブランド物のスーツを綺麗に着こなすその人物は男性であった。
 そしてその彼は、集団の中でグレーのスーツに身を包んで、専門的なことを話している彼女を発見するなりにっこりと笑った。
「やぁ」
「え?」
 声をかけられて、彼女はその人物を見て止まる。一緒に話していた女性も立ち止まった。
 ただ、普通に声をかけられたから止まった、とは見て取れない。どちらかというと、その人物を見るなり固まった、という表現が適しているのかもしれない。
 と言うか、凍りついた、の方が適切か。
 どちらにせよ、彼女は立ち止まり、多少表情を引き攣らせながらも、声の主に顔を向けている。
「な、なん…?」
 パクパクと口を開きはするものの、言葉にならない。それぐらいの衝撃だったのだ。
「元気そうだね、ラエスリール先生?」
 その清々しい笑顔からは好青年というイメージしか沸かないのだが、彼女にしてみれば悪魔の微笑みに等しいもの。
 そう、まさか、今日、こんな場所で出会うとは。
「闇主、さん?」
 見間違えようがないのだが、敢えて確認してしまうのは、できれば二度とお近付きになりたくないと思っていたからだ。
 数週間前まで連日に渡って自分の頭痛の種となった人物。
 退院してようやく日常が戻ってきたと感じたばかりなのに。
 よもやこんな異国の地で顔を合わせる事になるとは。
「ラス? この人は?」
 隣にいた女性が尋ねてきた。
「あ、その……元、患者で…」
 ラエスリールが言いよどんでいると、にっこりと笑ったままで彼が勝手に自己紹介をした。
「つい数週間前まで先生にお世話になっていた者です。御礼をしたいと思っていたんですが、先生は連日忙しいらしくて会えずじまいで……今日は偶々仕事でこちらに来ていたんですが、ここでドイツの医学会による研究報告があると聞いて『もしかして』と思いましてね」
 嘘か本当か。
 半分ぐらいは本当だろうが、残りは嘘に決まっている。
 偶然にしてはできすぎた話だ。
 一緒にいた女性も全てを真実とは思っていないようだが、そうとは見せずににっこりと微笑んだ。
「そうだったんですか」
「ええ。ところで先生、お時間は取れますか?」
「……………お気持は嬉しいのですが、これから二駅先で待ち合わせている友人たちと夕食を取る約束をしているので、失礼します」
 そう言うなり、ラエスリールは闇主どころか一緒に歩いていた女性も放り出してさっさと歩いていった。
 闇主はそれを見て苦笑する。
「やれやれ…なかなか二人きりにさせてくれないものだな」
「あなたも物好きな人ね。あの子は顔もお金にも興味のない子なのよ?」
 女性がクスッと笑いながら言う。
 闇主はその女性に笑みを返しながら言った。
「だからこそ、落とし甲斐があるでしょう?」
 営業スマイルのその彼をしばらく凝視した後、「ラスも大変ね」と彼女は呟いた。

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絵茶の医者ネタ第2弾です。
えっと闇主さんの目標達成まで……続く?

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碧さん作、お医者様の第2弾です☆もうもう待って
ましたよ(>_<)ノ 患者闇主さん、ラス様を追って
海外まで来ちゃいました(笑)vますます今後の展開が
とってもとっても楽しみです(>_<)ノ次はラスさまとのデート編
ですよ・・・ね?(じぃ)

後記担当 ちな