紅き闇の主






そのとき、目の前に立った闇主は。
なぜだか妙に…背が高く、見えた。

思わず、足元を確認する。
浮いては、いない。それなのになぜ…これほど、大きく見えるのか。

ラエスリールは、一歩下がった。
そう、近すぎるのだ。だからこれほど大きく見える…のだ。
もう一歩離れてみれば…ほら、いつもの大きさに………





「―――…っっ!??」

唇に、なにか。
やわらかいものが…強く強く、押し当てられた。

なんだろう、と。思ったけれど、そんなことよりも。

下がったはずなのに、気配もなく広がった深紅の瞳。
目の前に…本当に、目の前に。まつげが触れそうなほど、そばに。


細められた目が、いつもとは違う。
人を小ばかにしたようなそれではなく、なにか…とても、やさしい。
それなのに、見つめられただけで胸の奥がざわざわとする。

かっと、頬に熱がのぼった。

首を振って、顔を背けて。

「…っ、あ…あん、しゅ…っ」

腕を思いっきり突っ張って、 体を離そうとする。
しかし、なぜだか離れない。腕が、伸びない。

「闇主…放せ…っ!」

腕が、背中にまわされていた。
背中を大きな手のひらが覆っている…それが、伝わる熱でわかる。
ひんやりとした手のひらなのに、触れたところが無性に熱い。


「いやだね」


ひとこと、含み笑ってこたえて。


秀麗な指先が、ラエスリールの頬にかかった髪を払う。





「…ラス…」


なにやら下腹のあたりがじんじんとうずいた。
どんな力をふるったのか…抗議しようと顔をあげて。


「―――ん、む…っ」


先刻の、やわらかいもの。
しっとりとして、少しだけつめたくて。


それは…闇主の、唇だったのか―――。



それが、なにを意味するのかなど…知らない。
ただ、やさしい。
なにかを奪われるような恐怖はある…けれど。


二本の腕に、背をしっかりと抱かれていて。



しめった感触が、唇をなぞった。


「…っ、あ…ん…」


名前を呼びきるまでは、できなかった。
とんでもなく甘いなにかが、唇を割って入ってきたから。


「ん、ん…っ」


味わうように、遊ぶように。

甘いあまい甘い…。



くちゅ、と。
ちいさな音がして―――空気が、唇の熱を奪った。


気がつけば、触れそうに近いまつげはない。


そうか、だから―――唇が、冷えるのだ―――。




納得した瞬間、ふわりと引き寄せられた。
深い紅色の、縫い目のない不思議な衣。そこに、顔を押し当てられる。






「ラス―――」






耳のそばの、髪が揺れた。



そこに…おそらく、口づけられたのだと思う。








だが、それを確認するまでもなく。










勝手をした魔性は―――音もなく、消え去っていた…。







2006.04.07〜04.08に行われた絵チャで、擬音お題【くちゅ】が
当たってしまいました; 破妖初えろか!? と思いつつ、ちゅうだけで
済ませることができて感無量です。←?
お題当選おめでとうございますー(おぃ)v熱烈なくちゅを有難う
ございましたーvふふふ、ラスさま、闇主さんに翻弄されてますねv
この後どうなったのか非常に気になりますvゆらんさんとっても
萌えなSSを有難うございましたーv
--- WEB SINCERE【うぇぶ・しんしあ】 ---
WEB拍手のようなものです。お礼絵(2006.04.13現在闇主さんひとり)が出ます。
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