お絵かきチャットお題  アリス
かさねちゃん(赤月 襲 様) 作

小奇麗な顔はしていたが人形のように座ってばかりの男ではなかった。むしろいつも忙しなく動いている感があるのだけれど、一つ一つの動作はやわらかくて繊細で、実は自動人形(オートマタ)なのだと言われれば信じてしまったのかもしれない。
「ラス」
「なんだ」
 務めて平坦な声音を意識して答えなければならなくなる。そんな日がこの自分に来ようとは、と頭の片隅で思いながらラエスリールは背後に目をやった。
「浮城にはまだ帰らんぞ」
「……だってさ」
 肩をすくめる青年は、しかし諦めようとはしなかった。
「ラスにとって仕事が大事なのはわかるけどさぁ、正直言ってこんなこと、ラスがやるような仕事じゃないよ?」
「わたしは破妖剣士だ」
「もっと弱っちいやつらにやらせとけばいいって言ってるの」
 口を尖らせるしぐさは、美貌には似合わないはずなのになぜかこの男にはしっくり似合う。
 こんなやり取りをするたびに頭痛を覚えていたのは最初の頃だけで、最近になって少しは慣れた。
 表情は変えずにつぶやく。
「皆、弱くなどない」
「弱いよ。ラスとじゃ比べるのも嫌だ」
「浮城にいる全員が、努力して力を手に入れたんだ。それを無駄にするようなことを言うな」
「実力の差は努力じゃどうにもならないよ」
「……」
 ラエスリールが沈黙すると、二人ぶんの足音のほかにはなにも聞こえなくなった。風の一筋すら吹かない。森の中だというのに梢が触れ合う音も、鳥がさえずる声も、虫の羽音も一切合切が停止した。いつもあれだけうるさい闇主がしゃべらない。ラエスリールはどうしていいかわからなくなって、だからただ歩く。
 時間感覚が麻痺してゆく。それは慣れた感触だ。
 ずっと前からただ一人で白い砂漠を歩いていた。大陸をわずかずつ蝕んでいるという広大な無機、白砂原。そこに根付くわずかな植物と、それを食べて生きるさらに種の少ない動物。彼らの営む生命の循環の一端に加わるだけの毎日だった。獲物を下げて浮城に帰れば食事を取って寝た。寝台に光が差し込めば朝だった。日々に組み込まれた動作でまた城を出る。時間感覚が麻痺してゆく。
 その感触に慣れきって、人形のようになれなかった。
 いっそなにも感じないでいられれば辛くもなんともなかったのに。
 口に出したことはない言葉を反芻し、ゆっくりとねじ伏せていく。わたしには心が残っている。友人もいる。だから大丈夫。
「闇主」
「うん?」
「今度の任務は……」
「幻を使って人を狂わせる魔性だったね」
 淡々と闇主は続ける。
「きっと、見えているものの大きさを変化させるんだと思う……、いきなり自分の手だけが骨と皮みたいになったら怖いだろう? それを利用するんだ。自分の身体とか、建物とか、そういうものが目の前でぐるぐる変わってく。延々とそれを見せ付けられると、いつの間にかおかしくなっちゃうってわけ。つくづく人間っていうのは騙されやすいよね。物の本質を見るってことがまるでできないんだ」
 すらすらと流した闇主は少しだけ歩を早め、こちらと肩を並べてきた。
「その点ラスはすごい観察眼を持ってるから大丈夫だよね。それに、万が一のときは俺が助けてあげる」
「お前に助けられたくなどない」
「酷いよ」
 あまり傷ついてはいなさそうな表情で笑い、男はまた歩調を変化させた。ラエスリールを追い抜き、器用に後ろ向きに歩く。
「ちゃんと俺を頼ってよ。俺は護り手なんだから」
「わたしは認めていない」
「酷いよ。ラス」
「酷くなんかない」
 目をすがめ、ラエスリールは立ち止まった。停滞しかけても止まらなかった時間感覚、そして自分の中に少しだけ残っている心。そのふたつが告げることがあった。
 彼はわたしを救わない。
 ここにいるのは狂言回しの傍観者。
「ラス?」
 小奇麗な顔はしていたが人形のように座ってばかりの男ではなかった。むしろいつも忙しなく動いている感があるのだけれど、一つ一つの動作はやわらかくて繊細で、実は自動人形なのだと言われれば信じてしまったのかもしれない。だってほら、どこまでも優しく大事にしてくれる男のはずなのに、わたしを呼ぶ声にはいつだって、
「どうしたの、ラス?」
 つくりものみたいに温度がない。

 涙を流せないのはわたしが人形だからじゃない。


-------------------------------------------------------

やっぱりひどい話になりました。萌えるんですかこれ? いや、こういうノリが個人的に好きなだけです。
初期の初期、おだんごラスさま=アリス、猫かぶり闇主さん=帽子屋+チェシャ猫? ってな感じでいってみました。自動人形なんて言葉すら無いような気もするけど(沈黙)
仏頂面でアリス服なラスかわいいよねーって……会話が……
どこへ!
アリス症候群とかチェシャ猫症候群とか思い出しちゃったわたしが悪いんです。もうアリス関係ないよ……! うわぁん。

わりとデフォルトです。ええ。

=========================================================
破妖の国のラスさまv言われてみれば、この頃の猫かぶりの闇主さんってそんな感じですよね;分かっていても切なくなったりで。
そんなそんなアリスですよーv私もこういう雰囲気のは好みなのでv
かさねちゃん、即興SS有難うございましたーvよかったらふりふり
エプロンドレスなアリスちゃんもvぜひv

後記担当 ちな