お絵かきチャットお題 いじめ  
麻弥様 作

 ほんの冗談のつもりだった。
 まあ軽い悪戯のような?
 どうやら相手を間違えてしまったようだ。
 彼女には冗談が通じない。
 ラエスリールは、天然記念物の生真面目さを誇る。
 さすがに今回のは早い所、謝っておいた方がいいかな。

 闇主は、宙に浮いた体勢で胡坐をかいて
 ぽりぽりと頭をかいている。
 怒り心頭の乳白色の髪の青年に詰め寄られだんまりを決め込む様子は
 ……彼が言う所のクソガキよりも格段に子供染みている。
(ああうっとおしい)
 闇主とて一応は罪悪感があるので、ばつの悪い表情を浮べているが、
 とてもではないが反省しているようには見えない。
「あんた姉ちゃんの性格知ってるだろ。
 相手のことを責めるよりも必要以上に自分を責めて
 痛々しいほど追い詰める。人間として生きてきたからか
 人間染みていて……。あんな優しい人、他に人間でもいないよ。
 ああ、こんな極悪鬼畜男に引っかからなければもっとまともな人生を
 送れて、きっと幸せになれたのに」
 怒りがいつの間にやら嘆きに変っている。
 闇主を選ばなかったと今となってはありえない仮定をしても、
 彼女はどちらにしても自分の運命の強い力に翻弄されていただろう。
 平凡な人並みの幸せをガンダル神は、彼女に与えなかったのだから。
 邪羅の言葉には選ばれなかったものの嫉妬、悔しさも含まれていて、
 不謹慎にも、闇主は奇妙な優越感を湧き上がらせていた。
 彼女にとって、欠けたら自我を失くすほどの絶対的な存在。
 それは自分にとっても同じくだがら、性質が悪い。
 傷つけたのは、こちらなのに同じくらい……否、もっと強く心に傷を負うなんて。
 認めたくなくても真実だから、余計に今目の前の現実に苛立つ。
 悪いのは俺だ。言われなくても分かっている。
「兄ちゃんにとっては軽い遊びに過ぎなかったのかもしれなくても
 姉ちゃんは冗談通じないんだからな」
「難儀な奴だ」
「っ。誰のせいだよ誰の」
 地団太を踏み邪羅は、闇主の元を去っていった。
 人間の子供のようなまっすぐな彼だが、生粋の魔性で妖主と妖主の間に生まれた純血種。
 言いたい事だけ言って去っていった邪羅の残した光の軌跡を
 闇主は胡乱な目で見つめていた。
 狂おしいほどに、欲する魂の半身を迎えに行く為に、
 自らも邪羅と同じく空間転移をする。
 彼女ーラエスリールーの名を心中で切なく呼びながら。




 空気が震えた次の瞬間、深紅の影が目の前に現れていた。
 彼らしい不遜な表情はどこかに隠れ、自責の念に駆られた
 表情で、立ち尽くしていた。
 ラエスリールの姿を視界に捉えるとふっと息をついて、
 ゆっくり近づいてくる。ラエスリールは、信じられないようなものを
 見る目でその様子を眺めていた。
 見放され愛想を尽かされた。
 嫌悪を込めた眼差しと言葉で、ラエスリールを拒絶し目の前から
 消えたのは彼だったのに。
 全部、至らない自分が悪いから追い縋ることなどできなくて。
 絶望で閉ざされていく世界に、目を逸らすこともできなくて。
 これから、また一人に戻るだけだと自分に言い聞かせて納得させようと
 頑張っていた所に、何かを察したのか邪羅が現われて、
 普通にしているつもりだったのに、やはり無駄な努力だったのか気づかれて心配をかけた。
 闇主を喪う。
 自分以外の何をなくしても決して堪えられないことだったと
 気づいた時は遅すぎたと自嘲気味に笑って歩き出した時、彼は戻ってきた。
 本来なら、こちらが彼を探して謝罪しなければならないのに。
 夢か現か、判断ができない。
 手を伸ばしたら陽炎の如く揺らめいて消えてしまったら……。
 恐怖から踏み出せない。
 どこまで臆病で弱いんだろう。
 ラエスリールが震える腕を持ち上げるのと、闇主の腕が彼女を抱きしめるのとほぼ同時だった。
 強い引力で奪っていく。
 言葉もなく抱きしめられたのだ。
 ラエスリールは安堵ばかりを覚えて、泣くなんて情けないと思っていたのに
 拭っても拭っても熱い雫が頬を流れていく。
 赤子がぐずるように嗚咽を漏らして泣きじゃくる。
 この人はこんなに温かいじゃないか。
 残酷で恐ろしい所もあるが、実はとても優しい。
「あ……しゅ」
「馬鹿だよ、お前は」
「だって、本当に嫌われたかと思った。
 私はお前を呆れさせてばかりだから」  
「……お前は学習能力がないからな」
 さらっと言われてラエスリールは胸が詰まる心地がした。
「だからこそ俺がいなきゃ駄目なんだろ」
 ラエスリールは闇主の腕の中で頷く。
「……もう止めてくれあんな事は。心臓がいくつあっても足りない」
「ああ、そうだな。俺が悪かった。だがお前も冗談と本気の区別を
 つけられるようになったらどうだ」
「うう」
「俺は本気なら、言葉で済ませない。
 ほら、身を持って知ってるだろう」
 愉悦さえ含ませている闇主にラエスリールはごくんと息を飲んだ。
 「そうなる前にお前が俺を殺せ。
 俺はお前を手にかけるなんてできないんだから」
 体を離され見上げれば真摯な表情。
 自己中心的な台詞に、ラエスリールは怒りを覚えながらも
 闇主らしいと思えば、不思議と憎めなかった。
「私もお前を手にかけるなんて嫌だ。死んでも死にきれないじゃないか」
 くすっと笑いかければ、キスが降りてくる。
「結局、お互い譲らないんだな」
「私ばかり我慢するなんて癪だから、お前もちょっとは譲れよ」
「無理」
「だろうな……そう言うと思った」
 ホッとしたラエスリールはぺたんと地面に膝をついた。
「……はは」
「しょうがないな」
 闇主に腕をぐいと引っ張られる。
 立ち上がったと同時に再び抱擁されていた。
「闇主って力持ちなんだな」
 ラエスリールは感心しているようだ。
 声には感嘆の響きがこもっている。
「……天然は天性のものだな」
 些か呆れた闇主だったが、頭の中では、それをもっと分からせてやろうとか色々考えていたりした。


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この間は楽しい時間をありがとうございました。何とか頑張って書けたので提出です!
らぶこめでもいけるお題だと思ったのですがどうも書けなくてシリアスになりました。意味取り違えてるかもと心配。(汗)ラスをいじめた闇主に跳ね返ってるんでよしとしてください(何)

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こちらこそ、楽しいお時間、有難うございました(><)/
いやん、ラスさまをいぢめるからですよ(><)<闇主さんっ!
でもでも、ラスさま本当によかったです〜(一体、闇主さん
ラスさまにどんなこと言っていぢめたのでしょうか(気になる))
邪羅くんも出てて嬉しかったです☆

後記担当 ちな