純白の未来


爽やかな風が吹く中、白い洗濯物が宙を舞う。
大きなシーツが何枚も、青い空に美しい軌跡を描いた。

「ラス〜…。そんな事してて楽しい〜?」
誰もが振り向かずにいられない美しい美貌を持つ青年が、その姿とは裏腹の退屈そうな声で傍らの少女に話し掛ける。そのあまりにも緊張感のない声にラスと呼ばれた少女はがくりと脱力した。
「……闇主……私が好きでこんな事やってると思うのか?今日は当番なんだ。しょうがないだろ?」
そう言いながら、少女ラエスリールは大きなシーツをパンパン叩いた。
洗ったばかりの洗濯物が仄かに香る。
「おまえもそんな所でのんびり見てないで、少しは手伝おうとか思わないのか?」
「え〜、だって闇主さん、洗濯物なんて触ったことないも〜ん。汚れたら困るだろ?」
と急に猫を被る。あまりの変わり様に皮膚がぞわぞわいうのを肌で感じながら少女はため息をついた。
「…………おまえに頼もうと思った私が馬鹿だったよ。」
結局、少女は山のような洗濯物を一人で干すこととなった。
今日は彼女が洗濯物当番の日である。
今、彼女が生活しているこの浮城という組織は、人間に害を与える魔性と戦うのが主な仕事である。しかし、常に魔性と戦っているわけではないのだ。
特殊能力をそれぞれが持っている、というだけで、住んでるのは普通の人間。
食事もすれば掃除もする。当然、汚れものの山なども出てくるのである。
それを当番制で従事する―――それが、ここのシステムだった。
先程も述べたようにラエスリールは今日、洗濯物を処理する当番なのである。
各々の汚れものは個々人が洗うのが普通なのだが、こういった共同生活に必要なシーツとか、そういったものは当番が洗うのが決まりごとだった。だから、しょうがなく……ラエスリールはその仕事に従事してる訳である。
それなのに、彼女の護り手ときたら………。苦労して洗濯物の山を運ぼうとする彼女を手伝う訳でもなく、何をするんだろう?という顔で退屈そうに眺めてるだけなのである。
「闇主。手伝う気がないのならどこかへ行ってて貰えないか?じーっと見られていてはなんだか落ち着かない。気が散る。」
「え〜。だってラスを見てるのは楽しいもん。ラスは俺からその楽しみまで奪うの〜?」
「私なんか見てて楽しい訳ないだろう?」
「え〜楽しい〜よ〜?ラスが一生懸命働いてる様子も新鮮でちょっとトキめく。」
何が、トキめく…だ、そんな訳の分からない事をいうくらいなら手伝ってくれ、と思いながらも、ラエスリールはそんな護り手の戯言を無視することに決めた。
「ラス?怒った?でもそんな様子も可愛いよ?まるで、構おうとするとすぐそっぽ向く子猫みたいだ。」
―――殴ってやろうか?
どうしてこの護り手はいつもいつも人の神経を逆撫でるようなことばかり言うのだろう?
黙っていれば、見目麗しいだけのただの青年なのに、口を開くだけで、こっちの頭痛を引き起こす。どうして私はこんな護り手を拾ってしまったんだろう?
頭を痛めながら、ラエスリールはシーツを広げた。彼女の身体よりも何倍も大きいシーツが風に舞う。
それを彼女の身長より少し高めに設置してある物干し竿に引っ掛ける。それが何枚もあるのだから堪らない。
この後、今日の夕食のために狩りに行かねばならないのだ。急がなければ……。
そんなことを思いながら、ラエスリールが洗濯物を干していると、シーツがふっと軽くなった。
驚いて振り向くとそこには闇主がいた。
「しょうがないから手伝ってあげよ〜か。一生懸命なラスも可愛いけど闇主さんも早くラスに構って貰いたいからね。」
そう言いながらラエスリールの背後に立った闇主が彼女の手から広げたシーツを奪い取ったのだ。
シーツと闇主の間に挟まって包み込まれる形になり、身動きがとれなくなったラエスリールは何やら急に落ち着かなくなってきた。
「…じゃあ、私はあっちの方で干すから……。」
そう言って彼の腕の中から逃げ出そうとした所、そっと闇主に羽交締めにされる。
「そんなすぐに逃げださくてもいいんじゃないか?そんな事されると闇主さん傷つくな〜。」
そう言って、事もあろうにラエスリールの体をぎゅっと抱きしめた。
「?!」
「ん〜洗剤のいい匂いがするね。洗濯物に囲まれるのも意外に悪くない。」
そう言いながら。赤髪の青年はそのまま彼女の首筋に顔をうずめたのだ。
「闇主!くすぐったい!離れろ!二人でここにいちゃあ、おまえが手伝ってくれる意味がないだろ?!」
だから放せ、と言外に告げる。
しかし、そんなラエスリールをしっかり無視して闇主はラエスリールをより強く抱きしめた。
「いいじゃない、闇主さんだって頑張ってるんだから、たまには優しくしてくれても。」
「どこが頑張ってるんだ?!そういう台詞は本当に頑張ってから言え!!」
そう言って腕の中でじたばた暴れるラエスリールを器用に押さえつけながら、今の台詞は全く聞いてなかったかのように闇主は呟いた。
「しかし、こうやって洗濯物に囲まれながらのんびり過ごすのも良いかもしれないね。」
闇主の言葉とは思えない台詞にラエスリールははたと動きを止める。
「おまえ…本気か?」
「ラスさえいれば、どこにいたって楽しいよ?」
そう茶目っ気たっぷりの笑顔で言う闇主にラエスリールは面食らった
ふとその言葉に我に返る。
風に舞い、鮮やかに翻る白い洗濯物。
さんさんと降り注ぐ暖かい太陽.
こういう風景をどこかで見たことがあるような気がする。
遠い遠い幼い頃の記憶……。
「確かに…。こういう穏やかな生活も捨てがたいな。なんだか昔を思い出す。父がいて…母がいて…弟がいて……。」
そう感傷に浸りかけたラエスリールに闇主が言葉を覆い被せた。
「―で、今は闇主さんがいるでしょう?」
そう目の前で麗しい笑顔を披露する青年にラエスリールは言葉を失った。
「ラスはもう一人じゃない。心配しなくても新らしい未来はやってくるんだよ?」
そう晴れやかに断言する青年にラエスリールは感傷から引き戻された。
「…そうだな。いくら過去が幸せだったからって、未来が幸せじゃないとは限らない。過去ばかり振り返って感傷に浸るのは良くないな。私の悪い癖だ。」
そう言ってラエスリールは自嘲した.。暗くなりかけた自分を感傷から引き戻してくれた青年にお礼を言いたかったが素直に言葉が出てこない。
そんな彼女に青年はにこりと微笑んだ。
「だからラスが好きだよ。」
それだけ言うと、突如青年は、少女の身体をぎゅっと抱きしめた。
「願わくば、その未来にも、まだ闇主さんが居ますよ〜に。」
「!!」
その後、彼女の怒号が青い空に木霊したのは言うまでもない。
真っ白なシーツがまだない未来を写し出していた。



END

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浮城時代のお話だね。
この頃の闇主さん好きだったんだよね。明るいけど、どこか謎がある美青年って所に惹かれた。
でも猫かぶり闇主さんとラブラブってちょっと難しいね(笑)
上手くいかず隠してました。
破妖起こし祭に捧げます。ちなちゃんよろしくー♪

レン

(レンさんの後書きをそのままアップしちゃいました。事後報告で申し訳ないです;)
レンさーん、本当に有難うざいますーvvしっかりとお預かりしますね(*^-^*)


ということで、イズミレンさんから頂いた小説ですv懐かしお団子ラスさまと猫被り闇主さんですv
もうもう、すっごくイイですよねv洗濯物の匂いはいいに お いですよねv
そして、真っ白なシーツから醸し出される輝く未来vvああ、妄想はつきません(微笑)。
レンさん本当に素晴らしい作品を有難うございましたm(__)m

後記担当 ちな

レンさんのサイトはこちらv→「赤男さま幸せ計画
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