愛してる


『愛してる』


それは、なんて陳腐な言葉か。歌に、物語に、街に、ありとあらゆるところに氾濫し、さも至尊かのように語られる。
だが、そのほとんどは『愛』ではなく、愛に似た紛い物でしかない。事実、紛い物の愛ならば、自分も数え切れないほど経験し、語った。

『愛してる』
戯れに、何度囁いたか覚えていない。其の場限りの言葉であり、それに伴う行為だった。
退屈しのぎでしかないソレは、表面上だけは似ていても、『愛』がもたらすという如何なる情動も無く、自分は愚かにも、知りもしないソレを見下して皮肉に笑うばかりの日々だった。

『愛してる』
今、初めて本気でその言葉の意味を考えて、愕然とした。あまりに自分が無知であった事実に。
純粋な知識という意味では、妖主であり数千年の時を刻んできた自分に匹敵するものなど、世界中を見渡しても片手の指にも満たない。
なのに、知らない。解らない。
この胸に宿る情熱の種類を、確信を持って語る勇気が・・・・無い。
彼女を想うと、胸が温かく締め付けられるようになる感覚。
彼女に触れたい、抱きしめたい、自分の熱を刻み込んで、溶け合ってしまいたいと熱望する感覚。
彼女の笑顔を守りたい。彼女を害する全てから護りたいという願い。
・・・・全ては、愛特有の現象なような気もするし、そうでないような気もする。

今まで一度も経験したことのなかったこと故、自信が持てない。数千年の時間から見れば、僅か数年など夢より儚い。
そんな刹那の夢にも似た感情に、こうも翻弄される自分は、一見滑稽なようだが、かつて如何なるモノにも揺り動かされなかった自分より、遥かに豊かであり、満たされている。

『愛してる』
・・・・今は、まだ言えない。だから今はただ抱きしめよう。そしていつか言える日が来たら、お前の全てを貰おう。


「――――その時は覚悟しろよ?」
腕の中に眠る娘に、囁く声は、陳腐さの欠片も無い真摯なモノだった。




ということで、千尋さんことちひちゃんから頂いたSSですv闇主さんの思いがもう、こう、ひしひしっと
伝わってきました(><)/本当の恋を知った闇主さんvふふふ、その時が来たらラスさまは一体どうなる
のでしょうかvと思ったり。
ラスさまバージョンも見てみたいななんてなんて(じぃ)。
ではでは、ちひちゃん、とっても素敵なSS有り難うございましたm(__)m


後記担当 ちな


千尋さんのサイトへはこちら→「朱金の故郷
背景素材提供「一実のお城」様