AI?

繋いだ手を離せない。
離したくないから、私は自ら望んで残酷になる。


「さようなら・・愛していたよ」
朱唇に浮かぶのは聖母じみた慈愛の微笑み。「姉・・上・・」
翠の瞳以外、父に生き写しの実の弟に手をかけながら彼女は優しく囁く。片手で乱華の蜜色の髪をすく一方で、ラエスリールの利き手は最強の真紅の斬魔刀、紅蓮姫を握り、弟の最後の心臓−−人間と同じ左胸を真っ直ぐに貫いていた。
「な・・ぜ?」
ラエスリールに流れるのと同じ、深紅の血が乱華の口元を伝う。その血を彼女は美しいと思った。彼女が愛する存在が纏うのと同じ色だから。
「お前は邪魔なんだ・・乱華は決して私を諦められないだろう?」
少し困ったような声音は、幼いあの頃のままなのに。
「お前は可愛いたった一人の弟だけど、お前の存在は私たちを脅かすから、私はお前を殺す。・・闇主じゃなく私自身の手にかけるのがせめてもの情け」言い切る色違いの瞳には、共に力が溢れ、魔性そのものの傲慢さに、圧倒的に輝いていた。
「あ・・・・」
−姉上と言いたかったかもしれない。だが、声が喉から漏れる前に紅蓮姫は乱華の最後の命を啜りきっていた。

ザァァァ・・

乱華の肉体は、魔性の定めそのままに金色の砂となり、その砂すらすぐに風に掠われた。

「・・お前が私を奪われる位なら、自らの手で私の命を絶つことを望んだように、私は私の欲のためにお前を殺すことを欲した・・結局私たちは似た者同士の、自分勝手極まりない魔性の姉弟だったわけだ・・」
彼女の左手に掴まれて、僅かに残った金色の砂に、ラエスリールは優しく口づけた。
それが、姉弟の永久の別れだった。

いつの間にか、すぐ後ろに深紅の髪と瞳の青年が腕組みをして悠然と立っていた。

「・・よかったのか?」
自らの手で弟を手に掛けて本当に後悔しないのかと問うているのだ。もし自分が後悔すると答えれば、禁断の時の力を行使してでも時間を戻し、彼女の手を血に濡らすことなく闇主の手で乱華をほふる事すらするだろう。
「後悔などするわけがない」
その証のように、左手に残った砂のかけらを風に溶かして、青年に歩み寄る。そして象牙色の彼の手に、自分の手を重ねた。


「私の望みは、この手を離さないこと。そのためなら私は何でもする・・魔性らしくな」互いの吐息が混ざるほどの距離で囁かれた言葉に、青年は熱い口づけときつい抱擁で応えた。

この、全てを犠牲にすることも厭わない、狂暴な感情を愛と呼べるのかラエスリールには解らず、また、もはやそんな事はどうでもよかった。
唯、この手を離さないでいられるのなら。

乾いた風が、漆黒と深紅の髪を揺らした。






ということで、千尋さんから頂いた小説ですvもうもう、ものすごく切なくなりました〜〜〜〜!!
タオルを片手に読んでました…。あのラス様が、自分の思いの為に…魔性らしく…その道を阻む
たった一人の……ああ、もう本当に切なくなりました。
ちひちゃん、本当に切なくなる作品を有難うございましたm(__)m



後記担当 ちな


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