正道



【正道】―-―人間としての道理にかなった正しい道。道理にかなった正しいやり方。



 正道を歩いているだなんて、思ってはいなかった。
生きる為とはいえ、どれだけの命を奪ってきたか覚えていない。
自分自身にすら制御できない感情からとはいえ、実の弟を狂気の道に堕とした。
そして、自分の我侭でこの青年――闇主を巻き込んだ。
どれもこれも良心が痛むことばかり。が、自分の良心などいくら痛もうとも、結果が変わらなければそれはただの欺瞞でしかなく、未だ痛む心も、所詮己の罪悪感への罪滅ぼしに過ぎない。
そういう意味では、闇主のほうが遥かに自分などより清清しいと思う。彼は自分以上の凶事を、ただ自分の愉しみの為に引き起こしてきた。そして、それを悪いとも思っていない。何故なら他から見た彼の行いがいかに非道であろうとも、それは彼にとっては正道であったことだから。自分の望みも行いも、己で認めているから堂々としてられる。その姿は、同じように多くの存在に迷惑をかけているくせに、無駄な後悔に苛まれ続ける自分には眩しかった。

 正道は、一つではない。あらゆる社会と、幾多の存在のその一つ一つに正道はある。
だが、それでも今の自分が選ぶ道は、少なくとも昔の自分なら決して相容れることの無かった道だ。
かつての自分の「正道」を棄て、ラエスリールは今の道を選んだ。

 選ばせたのは・・・・・・









 二つの腕が、ラエスリールに絡み付いている。寝台の上で向かい合う形で、闇主の右腕は彼女に腕枕をし、左腕は彼女の背中を抱え込んでいる。彼女の顔の目の前には、綺麗過ぎる青年の顔があって、互いの吐息が交じり合っていた。今、青年の息は穏やかだ。眠りを本来必要としない青年なのに、行為のあとだけは多少眠ることが多い。何故かと一度聞いたら、そういう気分だから・・という解り易いようで解り難い答えが帰ってきた。
ふと心配になる。差し込む日差しの加減からして自分は、数時間は眠っていたようだが、そんな長い間こうしていて、青年の腕は痺れなかったのだろうか?いくらこの青年が世界最強の魔王でも、何だか心配になってしまう。
彼を起こさないように、慎重な動きで甘い呪縛から抜け出そうとした。


 「このままでいろ」
いつもの彼らしくない、傲慢さの欠片もない切なげに響く囁き。
寝入っていたはずの青年が、不意に囁いき、逃れようとする彼女を両腕に力を込めて優しく縛めた。
「・・・・わかった」
何だかどうしようもないほど熱くて甘い感情の奔流がせりあがってきて、沢山言いたいことはあるような気がしたのに、それしか言えなかった。でもどうしてもこの気持ちを・・この切ない感動を伝えたくて、そっと青年の頬に口づけた。
青年が、目を開いた。
血の―――命の色をした深紅の隻眼が自分を見る。・・・・唯自分だけを。
もっと自分だけを見て欲しいという抑えがたい欲望がラエスリールを支配する。その切ない欲望は、即座に青年に感染して、青年は深い口づけで応えた。

 快楽で、躰が溶けていくのがはっきり解る。だがそれ以上に解けるのは心だ。心が溶けて、時間間隔は曖昧になり、この瞬間は刹那でもあると同時に永遠にもなった。

 そして悟る。自分にとっての正道を。
自分にとっての「正道」は、この腕がある処。この腕が自分を包んでくれるのならば、他のあらゆる「正道」を踏みつけても、後悔はしない。また、最早この感情を愛と呼ぶのか、この関係を恋人と言うのかそんな呼ばれ方なども、既にどうでもいい。
例え生涯罪悪感は消えずとも、未来永劫蔑まれても、自分は至上の幸福の中で、己の正道を往く。


 その誓いのように、彼女は自分から彼に肢を絡めた・・・・。






***後書き***

また30分くらいの一発書きです。。。。。。。。あとで粗が見えてきそうで怖っ!

正道〜云々については最近の自分の叫び。他人にどう映ろうと、それしか選べないことはあると思います。
ではお粗末さまでした>< by千尋


ということで、千尋さんから頂いた小説ですvおおおーとなりましたv
艶っぽいシーンはもちろん素敵vなのですが(腕まくらとか腕まくらとかv)、読ませて頂いて
本当に考えさせられました。
例え、それがはたから見れば、どんな道であっても、どんなに傷付くことになったとしても、
自分自身が選んだ道こそ自分にとっての最良の正道である。なるほどと思いました。
ではでは、ちひちゃん、とっても考えさせられる素敵萌え小説を有難うございましたm(__)m

後記担当 ちな


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