因果律

―――――原因があって結果があるという法則。















 この世の全ては因果律で説明できると唱える思想がある。そのことをラエスリールはふと思いだした。全ての事象
に原因があるというのは、なるほどそれは最もだと思える話だ。だが、世の中の事象には、何が原因だか解らないこ
とが多々ある。
例えば愛。
例えば憎悪。
感情に関する事柄の原因は曖昧模糊として、自分自身にすらよく解らないことが多いのではないだろうか。
ラエスリールに限って言えば、今自分の膝に頭を乗せて眠っている(眠る必要の無い生粋の魔性のくせに)青年に関
することが、その最たるモノだ。
いつ・どうした理由で青年――闇主が自分の中で、他の誰にも変えることが出来ない位置を占めたのかは、彼女自
身解らない。あれがそうだったのではという記憶は無いではないが、それは曖昧で、気づけばそうなっていたと言うし
かないのが本当の所だった。
もっともそれは彼女に限ったことではない。凡そ、恋とか愛とか言われる感情の始まりは概してこんなものだろう。

 髪を梳く。血の色をした髪は、触ると意外な程さらさらとしていて、まるで清水の流れのように指の間を滑る。梳いて
も梳いても、すぐに指の間を滑ってしまう感触が心地よく、何度も繰り返す。その掴み所の無い心地よさは、青年の性
格そのものにもよく似ていた。

 ――――――ああ・・もしかしたら・・・

ふと天啓のような閃きが、ラエスリールの脳裏を過ぎった。

 ――――――あの時かも知れない・・・



闇主が、自分の運命となる因果が刻まれたのは・・・・・・




 唐突に訪れた、因果の答えらしき記憶。だが、それは今のラエスリールにとって、既に重要なことではなかった。
大切なのは現在。
確かに『今』を作るのは過去の行いだろう。だがその『今』をどう考え、どう生きるかは『過去』の自分ではなく、今此処
にいる自分が決めることなのだ。

 いつの間にか、彼女の朱唇に微笑みが浮かんでいた。その百花が一斉に華開くかのような艶やかにして清冽な美
しさに気付きもせず、静かに微笑むラエスリールの膝の上で、紅い頭がゆっくりと動いた。
緩やかに半身を起こしていく青年の動きは、ある一点で静止した。
其処は、彼女の唇。
柔らかな紅色のそれに、薄めの淡紅のソレが密やかに重なっていた。
それが合図のように、闇主とラエスリールを包む空気が質を変える。
柔らかにして安らかなそれから、他の如何なる存在も壊しえない、強固にして絶対的な情熱のそれに。



―――――――――――――ラエスリールの両腕が、闇主の背中に絡みついた・・・・






ということで、千尋様から頂いた小説ですv限定でアップされていたのを、お祭りにと頂きました(感無量)!
やっぱりいいですねvちひちゃんの独特の世界観があってとっても素敵です(うっとり)v
私的には、一番の萌えポイントは、膝枕で髪を梳くだったりします(微笑)。
それでは、ちひちゃん、本当に素晴らしい作品を有難うございましたーーvv



後記担当 ちな


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