お絵かきチャットお題  医者
碧様 作

平日の昼下がり。街中にある、とある料理店にて。
窓際の席で2人の女性が遅めの昼食を取っている。1人は平然とした顔で食べていた
が、もう1人はなんだか陰鬱な空気を背負っていた。
「で?」
 食事に誘われて上機嫌の砂色の髪をした女性が、相手に向かって言った。相手は、ハ
アッと大きな溜め息を吐く。
「やっぱり、お礼をしないとまずいよな」
「そりゃあ、ねぇ?」
「でもなぁ」
「私にしてはラスが悩んでいる理由がよく分からないけれど」
 そう言いながら、サラダについていた半分に切られたゆで卵をフォークに刺して口に運
ぶ女性。むぐむぐと食べるその姿は、なんと言うか……他人事である。
「だって、相手は…」
「ラスは考えすぎじゃない? 相手が『良い』って言ってんなら良いのよ」
「いや、良いとは言ってな」
「それに玉の輿じゃない♪」
 にっこりと笑う女性をラエスリールはじろっと睨む。
「サティン……楽しんでないか?」
「あら。親友を疑うの?」
「そうじゃ、ない……けど」
「けど?」
「住む世界が違うだろう?」
 しょせん、しがない医者…しかもさほど実績も積んでいない医者の卵に近いような自分
が、世界の企業を相手にするような会社の社長となんて。
 と彼女は思っているのである。
 感覚が違う。価値観が違う。仕事仲間として付き合うならまだしも、そういう関係で付
き合うとなるとけっこうしんどい。
「普通、玉の輿って言ったら喜ぶものよ?」
「お金の問題じゃないだろう?」
 価値観は人それぞれだが、彼女は財産がどうこうで人と付き合うのは間違っていると
思っている。
 そんな性格なのだ。
 サティンは「んー」と唸る。
「あのね、ラス。1つはっきりさせたいんだけど」
「何?」
「ラスはその人の事、どう思っているの?」
「私は別に…」
 どう思っていると言われれば、煩わしいとしか答えるしかない。
 明確な言葉がそれ以外に出てこないのだ。もやもやと霧のかかった気持ちしか持ち合わ
せておらず、それをどう位置づければいいのかが分からない。
 好き、とは違う。
 でも嫌いでもない、と思っている。
 けして嫌いではない。ただどうしたらいいのか分からないのだ。分からないから、距離
を置こうとする。考えないようにする。離れようとする。傍にいたくないと思う。
 拒絶してしまう。
 そんな半端な自分がいる。
 相手が冗談にせよ本気にせよ、答えを求めているのなら明確なものを出してあげなけれ
ばならない。それが礼儀と言うものだと、彼女は考えている。
 だからこそ相談しているのだが。
「はぁ。どうしてこう生真面目かしらね。ねぇ、ラス、ここはひとつ」
「?」
「1回付き合ってみて、どうしてもダメなら、適当なところで『他に好きな人ができたか
ら』ってふってみたらどう?」
「……それで相手が納得すると?」
 彼の今までの行動から考えるに、それで素直に納得するだろうか。
「まぁ、まず、しないわよねぇ」
「サ〜ティ〜ン〜……」
「もう。そんな顔しないの。何とかなるわよ」
「何とかって…」
「『成せば成る』!」
「……サティン、私は真剣なんだが」
「あら。私もそれなりに真剣よ?」
 言うに事欠いて「それなり」。そして満面の笑み。
 ラエスリールはがくっと肩を落とし、ちらりとバッグから顔を出している携帯電話を見
た。
 いっその事、何か重要な手術でも入ってくれればいいのに。医者として不謹慎だが、そ
んなことを願ってしまうほど、切羽詰っていた。
 日増しに相手のことを考える時間が増えてくる。ここ数日、目の前に現れていないこと
も原因ではあるのだろうが。
 そう、ここ数日、あれほどしつこかった訪問がないのだ。
 けれど最後に会った時に渡された袋の中にはちゃっかり名刺が入っていたのが、抜け目
ないと言うか。
 思わず両手で頭を抱える。
 そんな彼女を前にして、サティンは店員にコーヒーのお代わりを頼んでいた。

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闇主さん出てきませんでした。。。
でも次回はようやく念願のデート話になりそうです。
前置き長くてすみません;

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碧さん作、お医者様の第4弾です☆
闇主さん、ちゃっかりと、名刺をいれてたんですねv流石です(笑)。
無意識にラス様意識してるみたいですね〜(にこ)vサティンも、本当に
このこったらvっていう感じでv
次は、デート編だそうで、碧さん、とってもとっても楽しみにしてますvv

後記担当 ちな