お絵かきチャットお題  外で昼寝
碧様 作

心地よい陽気。冬の間は聞こえなかった鳥の声が耳に届くようになって久しい。花の甘い匂いが空気に混じっている。
 耐え忍んだ命たちが芽吹く季節。
 誰もが伸びやかな表情を見せる季節。

 街の外れに丘がある。大きな樹が頂上付近には何本か立っていて、緩やかな斜面には青々とした草原が広がる。
 その上を風が駆けていく。その先には白い雲の浮かぶ青い空がある。
 ぼうっと流れていく雲を見つめる少女の横には、草原に寝転ぶ男の姿。寝転ぶ…だけではなく、彼は本当に寝ていた。
 なんでも学期初めに教授に提出するレポートを徹夜で仕上げたらしく、ほとんど寝ていないのだそうだ。
 そんなわけで昼食を取った後にここに来て、小休止をしている間に眠ってしまったようだ。
(眠いほど疲れているのならわざわざ自分に付き合わなくてもいいのに)
 一緒にいる時に寝顔を見るのは珍しい。
 と言うか、初めてかもしれない。
 いつも自分をからかって遊んでいるから。
 やめてくれと言っても、笑顔でかわされる。
 そんな表情を見るたびにしかたない、と思っている自分は、本当は遊ばれるのは嫌いではないのかもしれないと思ったりする。
 ふうっと息を吐く。春には似合わない行動だ。
 しばらく視線を青年に向けていた後、彼女は自分も草原にダイブした。青臭い自然のベッドは彼女を優しく受け止める。
 目の前にあるのは晴れた空。
 陽射しは柔らかく、草の合間を縫って小さな花が咲いていた。
 顔を横に向ければ寝息を立てる青年の顔がある。
 うつ伏せに肘を立てる形で上半身を起こす。
 普通の光の下で見ると深いだけの赤も、光に透かすと燃えるようだ。顔にかかっているそんな色をした髪を払うと、そういえば睫毛も同じ色だったな、と気付く。
 端正な顔は、そこらの美術館に飾ってあってもいいぐらい整っている。
 見慣れている人間にはどうってことないが、初めて見る人間にはかなり強烈なインパクトを受ける顔だろう。
 そんな顔を間近で見られる人間は、そんなにいない。
 んー、と数秒考えた後、彼女は何を思ったのか。
 左手を彼の顔の上に移動させて。
「……」
「……」
「………」
「……ん、…?」
「…………」
「…………っ?!」
 ガバッと体を起こす彼の体にぶつからないように、彼女は体を捻る。仰向けになって、腕を背中の方に回して上半身を少し上げた姿勢で彼を見る。
 体を起こした彼は十数秒荒い呼吸を繰り返す。
 そして未だに寝転んだままの彼女を見下ろす。
「……ラス」
 責める声が聞こえたが、彼女はクスクスと笑った。
「あんまり気持ち良さそうだから」
「それが寝ている人間の鼻をつまむ理由か」
 そう、あろうことか彼女は疲れて寝ている彼の鼻を摘んだのだった。
 けれど彼女は笑みのまま。
「闇主が寝ていると暇なんだ。景色は綺麗でも話し相手がいないだろう? ここまで引っ張ってきたのはお前なのに、当人が寝ているのはおかしくないか?」
 正論と言えば、正論。
 寝起きの彼はバツが悪そうな顔をする。
 1分近く、両者はその体勢のまま見つめあった。
 そして闇主がため息を吐く。
「ったく。上手くなりやがって」
「お陰様で」
 それを聞くと、闇主はもう一度草原に寝転んだ。
 ラエスリールの姿勢は先ほどのうつ伏せの時の姿勢に戻った。
「闇主?」
 見上げていた顔を再び見下ろす形で見る。開かれた深紅の瞳に春の太陽の光が入り込んでいる。
 それを見ていると、闇主は自分に近い方の彼女の腕をとってその細い体を自分の上に落とした。
 胸の上で彼女が眼をぱちくりさせると、その気配を感じたのか、彼は楽しそうに笑いながら言った。
「どうせだからお前も寝ろ」
「は?」
「一緒に寝てれば話し相手の必要はないだろう?」
「…ずるい」
 非難めいた声を出した彼女の頭を抱いて、闇主は空を見上げた。
 小鳥が2羽、仲良く飛んで行く所だった。
「俺に勝つにはまだまだだな」
「………悔しいから、一緒に寝る事にする」
「そうしとけ」
 クスクスと笑う低い声。
 未だに勝てた試しはない。
 いつか出し抜いてやると思いながら、目を閉じる。
 太陽の匂いと、トクトクと、自分の下で脈打つ愛しい鼓動を感じた。

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書きながら指がむずむずしました;
ラヴは恥ずかしいですね(///
お題のイメージを沸かせていたら
鼻を摘むラスちゃんが浮かんでしまい、
こんなことに。。。

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碧さん、ご馳走様です☆もうもう、鼻を摘むラスちゃんに
めろめろですよ(><)/その後は、上にごろんでvv
思わずお絵かきしたくなる衝動に駆られました(大真面目)v

後記担当 ちな