お絵かきチャットお題その2 添い寝  
碧様 作
小さい頃は怖い対象が決まっていたから、お化けとか、よく分からないものが夢の中に出てきた。
 母親が死んでからは、魔性の夢ばかり。
 そして血に染まった母親の夢を。

 でも、怖い対象が本当に怖い内は幸せだったのかもしれない。
 「怖い」と思えることが出来るうちは。

 今見る夢はただ幸せで。

 それだからこそ、怖い。

     ※

「なぁ、闇主」
「ん?」
 広いベッドの上。気だるい空気の漂う部屋。まだ熱さえ体に燻っている、そんな夜。
 暗闇でさえ昼間と同じように物を見ることのできる自分たちにとって、部屋の暗さなど何の障害にはなりもしない。それでもそこに闇があって、明るくないということは微かに覚える羞恥心を和らげてくれる。
 隣にいる青年は自分よりも体をいくらか後ろに引き、上半身の下に枕がくるようにしているので、自分よりも高い位置から視線を投げてくる。そして、筋肉質ではないが、女のそれとはまるで違う腕が自分に伸びていて、その先にある綺麗な指が髪を梳いていた。
 体温さえ感じないというのに、優しい動作に胸が温かくなる。
 魔性の王のくせに。
「どうしたんだ?」
「ん。偶にな」
 上半身を斜めにしてこちらを向いている彼と向き合うように、仰向けにしていた体を横向きにする。
 さらりと一房、黒髪が頬にかかって、それを払われる。
 そう、偶に。
 こんなことをされると不意に。
「……全部、夢じゃないかって思うんだ」
 幸せだから、余計に。
 痛いばかりの現実だった。それでも最後に手に入れたのは、切なくなるぐらい愛しい日々。
 夢によく見る、光の溢れる幸せ。
 だからもしかして、今ある全ては自分が都合よく作った幻なのではないか、と不安になる。
 自分はただ眠っているだけで。目が覚めたら、何も解決していないのではないだろうか、と。
 そんな思いを抱いて色違いの瞳で彼を見上げる。
 しばらく無言の時が過ぎ、彼の口から溜め息が零れた。
「臆病者」
「闇主?」
「受け入れるのが、そんなに怖いのか?」
「……怖いさ」
 幸せを失う瞬間。
 幾度も幾度も。
 大切な者を失っていくあの時を迎えるのが、とても怖い。
 恐怖に駆られて、夢の中に逃げようとする自分が怖い。
 幸せを受け入れて、それを失ってしまうかもしれない日に恐怖する。
「嫌なんだ。いつか夢だけになってしまいそうで」
 失って。夢を見て。喪失に嘆く日々。
 そんな日々が未来のどこかで訪れた時に見る夢は、きっと今この時のこと。
 彼がいて、自分がいて。
 満たされて、与えて。
 そんな日々の夢を。
 きっと。
「いつかは終わるさ」
 闇主は事も無げに言う。
 否定はしなかった。
 終わりがない始まりがどこにもないことを、知る人だから。
「でも、死ぬまで離れやしない」
「…闇主?」
 深紅の青年はその腕で自分を引き上げた。
 気付いた時には彼の胸の上にいて、頭を撫でる手があって。
 心地よさに目を閉じる。
 体温がないはずなのに、感じる温もりは、いったい彼のどこにある熱が生み出すものなのか。
「もう寝ろ」
「……」
「ずっと、抱いててやるから」
「…ずっと?」
 訊くと、答えの代わりに髪を梳いていない手が、自分の手を掴んできた。大きくて、冷たい、よく知る大好きな手。
 頭を撫でる手が体を抱きかかえるように背中に移動した。
 自分は空いている手を彼の肩の上に乗せる。
「こうしていれば、目が覚めても俺がいるって分かるだろ?」
「…そうだな」
「夢から覚めても、俺はここにいるよ、ラス」
 幼い子に言い聞かせるように。
 子守唄のように囁く声。
「幸せは続くから。安心して眠ればいいさ」
「……………うん」
 切なくて。
 本当に、切ないぐらいに愛しくて。
 思わず零した涙を拭われて。
 そんな優しさの中で眠る時が1番の幸せで。

     ※

 ただ、そう。
 だから眠りに落ちる前に、自分は。

 目が覚めてもこの温もりがここにあることを、祈るばかりで…

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お題…ずれました?
添い寝。添い寝。。。と言うか、寝る間際の小話に;

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もう、すっごくイイです(><)/
後朝ですよねvですよねv闇主さんがとっても優しいですv
そして、なんといってもラスさまが可愛い、可愛いの
一言につきますvにまにまっとなる素敵SS有難うございましたーv

後記担当 ちな