夜の語らい
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「なぁ、闇主。」
「なんだ?」
「私を色に例えると、どんな色だ?」

深い深い夜の森。
細い三日月が木々を照らす。
追っ手から逃れるため、一時この森に身を落ち着けた二人。
大きな木の根元に背中を預けて座っている闇主の膝の上には、
ラエスリールが頭を闇主の胸にうずめるように眠っている。
ここ数日、追っ手との戦いが多かったためか、眠りは深い。
眠っている間に抱き上げられても、髪をずっと撫でられていても。
無防備に眠り続ける。

三日月が傾きはじめた頃。
ラエスリールが身じろぎした。
起きたのか、と顔を見ると瞳は閉じたまま。
まだ起きないのか、と苛立つ反面、まだ眠っていろ、と願うその矛盾。
自分の心の有り様に苦笑を浮かべる。
止まっていた手で、再び髪を撫でようとした。
「なぁ、闇主」
突然問い掛けられた。
瞳を閉じたまま、ラエスリールは口だけを動かして。
起きた気配は無かった。
起きているなら、この状況に黙っているはずがない。
頬を真っ赤にして怒るだろう。
寝惚けている、というのもあり得そうにない。
今まで、彼女は起きたらすぐに目を開けていたのだから。
例えどんなに寝惚けていたとしても。
「なんだ?」
ただの寝言だろう、と思いながらも返す。
返事は寝息だろう、と自分に突っ込みながら。
しかし、予想は裏切られた。
「私を色に例えると、どんな色だ?」
闇主は目を見張った。
まさか、返事が来るとは思ってもみなかったのだ。
(もしかして、こいつ寝言で会話すんのか?)
あり得なくもない。
驚きが過ぎ去ると、笑が込み上げてきた。
(ほんとうにこいつは・・・・)
傍にいて、飽きない。
えてして、こういう人物はそのときの事を憶えていないものだ。
このことで、当分の間はからかうことが出来ると思うと、楽しみになってくる。
それにしても、何と当たり前の事を聞くのか。
答えなど決まっている。
「ラスは朱金だ。
誰よりも華やかで鮮やかで。
誰よりも強く輝いていて。」
口を耳元に寄せて、囁く。
「俺を魅了して離さない。」
起きた時、憶えていないだろうと思いながらも本音を言う。
心の奥底では、きっと憶えているだろうから。
頬に触れる。
指先で、その柔らかな曲線を確かめるように。
気持ち良かったのか、ラエスリールの口元に笑みが広がる。
白い花のような純粋で美しい笑み。
指を顎に滑らせ、上向かせる。
羽のような軽い口付け。
「ラス、もうすこし眠っとけ。」
指を離しながら、言う。
「あぁ、そうする。」
ラエスリールは、闇主の胸に顔をうずめて応える。
その後、ラエスリールは、起きるまで何も言わなかった。
闇主は、髪を優しく撫でながら、見つめていた。
優しい光を瞳に宿して。




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寝言で会話できるv流石ラスさまです(微笑)v
闇主さんの思いもひしひしっと伝わってきますv起きたら覚えてないんだろうなと
思いつつ真実の気持ちを伝える闇主さんにちょっとほろりとなりました。
穏やかで優しい感じのする素敵小説を有難うございましたm(__)m



後記担当 ちな


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